相続財産の基礎知識
被相続人が亡くなると、相続が開始されます。
被相続人に属していた権利義務すべてが、相続人に包括的に承継される(すべてそのまま引き継がれる)こととなります。
相続人に承継される権利義務のすべてを「相続財産」または「遺産」と呼びます。
相続財産の主な特徴は以下の通りです。
- 形のある資産のほか、法律上の立場も引き継ぐ(賃貸人・賃借人や借地権、金銭債権など)
- プラスの資産のほかに、マイナスの資産も引き継ぐことになる(他の人への借金がある場合など)
引き継がれないものもある(一身専属的な権利義務)
被相続人の一身専属的な権利義務(被相続人だけが有することができるもの)は、相続財産に含まれずに基本的には相続できません。
一身専属的な権利義務は権利や義務の性質・内容を考慮して本人と相手方との間の個人的な関係をもとに成立しているため、本人だけに与えられたり課されたりするものです。
代理権や雇用契約における被用者の地位、組合契約にもとづく組合員の地位、親権者の地位などがこれに該当します。
それらの権利義務が相続されて不当な利益が生じたり、相手方に問題が起こることを防ぐために、民法では一身専属的な権利義務の影響範囲を定めています。
例えば以下のようなものが挙げられます。
- 代理権:本人または代理人の死亡により消滅(民法111条1項)
- 使用貸借:借主の死亡により終了(民法599条)
- 被用者:使用者の承諾を得なければ自己に代わって第三者を労働に従事させることは不可(民法625条2項)
- 組合員の死亡:組合から脱退する(民法679条1号)
ただし、一身専属的な権利義務に該当していても、その権利義務から具体的な金銭債権が発生している場合は、その金銭債権は相続財産となるので注意が必要です。
また、一身専属的な権利義務の中でも相続できる可能性があるものが存在するため、もし相続したいものがその権利義務にある場合は弁護士にご相談することをお勧め致します。
慰謝料請求権について
慰謝料請求権とは、「不法行為により精神的・肉体的苦痛を受けた場合に、不法行為者に対し損害賠償として金銭の支払いを求める権利」のことを言います。
精神的・肉体的な苦痛は本人にしか感じられないものだというイメージが強いため、慰謝料請求権は一身専属的な権利義務に該当して相続の対象にならないというように思われるかもしれません。
意外なことに判例では、慰謝料請求権が発生する場合における被害法益は被害者の一身に専属する一方、生じた慰謝料請求権に関しては単純な金銭債権であり、相続の対象となると解釈されています。
例えば被相続人が事故によって即死してしまっても、慰謝料請求権は相続人に引き継がれるということですね。
祭祀に関する権利の相続について
墓石・仏壇・仏具などの財産が祭祀に当たり、墓地の所有権や使用権も祭祀に関する権利に当たるとされています。
遺骨は祭祀には該当しませんが、祭祀承継者が埋葬のための管理権を有すると解されています。
祭祀承継者は被相続人が指定しますが、特に指定がない場合は慣習により定めることとされています。
被相続人による指定もなく慣習もない場合は家庭裁判所が定めることとされており、祭祀承継者を定める基準としては、承継者と相続人との身分関係や過去の生活関係及び生活感情の緊密度、承継者の祭祀主催の意思や能力、利害関係人の意見等諸般の事情を総合して判断するものとされています。
死亡保険金や死亡退職金の場合
死亡保険金では、被保険者が被相続人であるものに関しては受取人の固有資産とみなされて相続財産とはされません。(受取人指定がない場合や被相続人本人が受取人に指定されている場合を除く)
死亡退職金も考え方は同様で、会社の退職金規程等で受取人に関する定めがある場合は受取人の固有の財産であり、相続財産には含まれません。
ただし、これらの資産については受取人である相続人とその他の共同相続人との間で著しい不公平が生じるといえる特段の事情がある場合、特別受益に準じて持戻し(遺産分割時に他の相続財産に組み入れ直して精算すること)の対象となる場合があります。
また、相続税法上において相続人が受け取った場合は相続、相続人以外の人が受け取った場合は遺贈により取得したものとみなされて課税対象となることがあるので、併せて覚えておきたいですね。
相続財産の調査は大切!
こうして相続財産について考えてきましたが、中には被相続人の家族であっても把握が難しい場合があります。
相続放棄や遺留分減殺請求、相続税申告には法定期限も設けられているので、相続が開始された早い段階での調査はスムーズな相続財産の把握や相続人の間での話し合いに必要不可欠です。
相続財産の調査は早めに行うことをお勧め致します。